怖い絵

図書館に行ったときに棚に横倒しになっていたので手に取ったらこの本だった。タイトルを見ると「怖い絵」これは縁だなと思いタイトル借りをして読んでみました。

怖い絵 (文春文庫)

怖い絵 (文春文庫)

久世光彦こんな作家の人がいたっけなと思ったらTBSテレビの名ドラマ「時間ですよ」「寺内貫太郎一家」などのヒット作を作った演出家だと思いだしました。
私が知らなかっただけで著作もかなりあるのですね。

この作品は久世さんの思春期のから青年期のころのはかない恋愛や学生時代の友人などのエピソードに絡めて絵画を紹介していくというものです。9つのエピソードがあるのですが、ひとつひとつの話によくぴったりな絵を探してくるなと感心してしまいました。

本を読んでわかるのですが、久世さんは学生時代はちょっと斜に構えた文学青年でした。不良でもあったので、ときおり垣間見る大人の世界と合い間ってなんというか、苦悩する不良青年の屈折加減が見事に選ぶ絵に出ているなと感じるのです。

怖い絵とはどんな絵なのか?血みどろのおどろおどろしい絵?
実は静かな絵の方が怖いと私は思うのです。

この本の中で私が印象に残った話は
「死に島からの帰還」
ベックリンの「死の島」という絵が出てきます。
学生時代の仲の良い三人組の友人のうち二人が自殺をしてしまうという話なのですが自殺した二人は一緒にあのときに見た「死の島」に描かれた白衣の僧が振り返るのを見てしまったのではないかと僕(主人公)は恐怖するのです。
「死の島」は静かな静かな絵でですが、その分死というものに向き合うのは、死するときは孤独でひとりだと実感させる静かに怖い絵です。

「「二人道場寺」の彼方へ」
きたない、穢い絵と評され大正画壇を追放された甲斐庄楠音が描いた「二人道場寺」
二人の女の死体をみた僕が思い出したのは肉感的なシンメトリーな構図の二人道場寺を踊る娘を描いたこの絵。汚いではなく穢いと評された甲斐庄楠音の絵に込めた本当の意味を読み問いてゆこうとする。甲斐庄楠音の絵は肉感的であり、官能的な雰囲気を漂わせていて花街の女などの絵では絵から女の白粉の匂いがしてきて思わずむせってしまいそうな濃密感があります。あっさりした日本画の世界から見れば異端ではなかったかと思われます。
そんな部分についても触れていて面白い話でした。
ちなみに私が甲斐庄楠音を知ったのは岩井志麻子さんの「ぼっけぇぎょうてぇ」の表紙に「横櫛」が使われていたからです。着物の柄が地獄草子の図版で微笑む女性の静な姿と対象的な地獄の動の対比に一目ぼれしてしまったからなのでした。

「誰がサロメを想わざる」
オーブリー・ビアズリー描く「サロメ

僕が出会った年上の知的な女性とのはかない恋の物語。
まるでビアズリー描くサロメのような宿命の女のように翻弄されてゆきすが、彼女は結婚しており、僕は東京に行き二人は別れてしまうのです。
同じくサロメを描いたギュスターヴ・モローの「出現」にも触れておりこちらも聖書の中のエピソードで宗教的な構図でしか描かれなかったサロメが、まったく意思のなかったサロメが官能的な意思を持ち始めたパイオニア的な絵なのです。

この場合の怖いというは・・・やはり女性の魔性の怖さなのでしょうか。
心の底にある自分の中の過去と向き合う怖さなのでしょうか?

この三つの絵は私もとても好きな絵です。
久世さんが感じるように怖い絵なんですが、やはり魅かれてしまうのです。
あなたが感じる怖い絵はどんな絵ですか?