独白するユニバーサル横メルカトル

「超怖い話」「東京伝説」シリーズなどの実話恐怖本でおなじみの平山夢明氏の短編小説集です。“後味の悪い生理的に嫌な話を書かせたら日本一”を言われる平山ワールド全開の恐怖が広がっています。

独白するユニバーサル横メルカトル

独白するユニバーサル横メルカトル

タイトルの「独白する・・・」を含めて8編の短編が収録されているのですが、特に気にいったものを何点か紹介します。

「Ωの聖餐」
ヤクザが殺してしまった人間の処理用に飼っていたものは、巨大な象のような人間。つまり死体は食べてしまえば後は元人間は排泄物となるだけなので食事として与えていたのである。その人間Ωの世話をひょんなことからするとこになった男の話。頭脳明晰な人肉食巨大人間Ωはやがて病気に侵されてゆき・・・驚く結末がまっているのです。

人を殺して見つからない方法・・・読んでいて熊谷愛犬家殺人事件の犯人を思い出しました。彼の名セリフ「ボディは透明」ですね。実際に殺した人間を包丁で切り刻み、川にながして透明した殺人犯です。しかし、いくら犯人でも人間に食べさせるとは思ってもいなかったことでしょう。一部は繁殖用に飼っていた犬に与えたとも言われていますが、闇の中です。この話は共犯者がドキュメンタリーとして出版しました。。熊谷愛犬家殺人事件の本「共犯者」ついては以前の日記にて紹介をしています→2006-02-13 - monksiiru(もんくしーる)の日記

さて、本題にもどります。この話は描写も残酷で血の匂いや腐敗臭が漂うのですが、なぜか格調高い空気が全編に流れていて素晴らしいのです。Ωの人格者たる言動などや流れる音楽などがそんな風に思わせるのでしょう。人間の脳を食べるとその人間の魂を得ることができる・・・。未開の地ではそんな言い伝えがあるそうです。だから人間の肉を食べるだと。敵の戦士の肉を食べるのは彼の強さを貰うためなのです。Ωの脳にもそんな変化が現れます。
おどろおどろしいカニバリズムの話なのですが、私はとても気にいってしまいました。

「無垢の祈り
99年に「問題小説」に掲載された短編ですが、今、読むと時代を先取りした感のある話です。連続殺人犯に会いたいと願う少女。母が再婚した相手の男に虐待される日々を救ってくれる人はあの人(殺人犯)だと願うこころが通じるときに・・・

この短編の中では珍しく結末に救いがある物語です。結末にくるまでは残酷ないじめや虐待、殺人の描写が続くのですが最後の数行に光がさすのが印象的な話でした。

「独白するユニバーサル横メルカトル」
時代遅れのメルカトル地図が独白をする、一人芝居のような短編。ある父子二代に渡って使われている地図の書き込みが過去の記憶をよみがえらせて行くのです。
殺人の記憶を・・・終わり方も落語のオチのようで怖い話ではないけれども全ての出来事を見続けてきた地図の語りがなんとも物悲しくさせます。
地図が意志を持っているというのは、九十九神をなんとなく連想させます。

そういえば・・・この話を読んで思い出したのはあの大久保清。私の元上司が同じ年恰好だったので当時、警察から事情聴取を受けたと言ってました。大久保清に殺された女性は自供したよりも多く、まだどこかの山の中に埋められているという噂もありましたが真相は?

その他収録の5編も血の臭いと不快感の迷宮に迷い込んだ物語でとても面白く一気に読めました。
悪夢の平山ワールドを堪能できる時間、真夜中の静寂に読みたい一冊です。