澁澤龍彦 幻想美術館
水曜日のこと、市立図書館の掲示版にあったポスターを見たら澁澤龍彦の名前が!翌日、そのまま北浦和にある埼玉県立近代美術館に行きました。
http://www.momas.jp/3.htm
澁澤龍彦の名前を知ったのは今から20年くらい前「黒魔術の手帳」という本を手に取ったのが始まりで10代の終わりから20代の初めにあるだけの澁澤本を読みまくりました。
不思議な世界観、中世ヨーロッパのダークサイドに位置するような人物の紹介など今の自分に大きな影響を与えた作家でもあります。
そして、澁澤龍彦と切ってもきれないものといえば美術関連の書評、日本では余り知られなかった画家や芸術家を紹介した偉大なる功績の持ち主でもあります。
私が今も大事にしている一冊の本があって「幻想の彼方へ」という澁澤龍彦の好きな幻想の世界を描く魅惑的な画家達を紹介しているものでいつか紹介された原画と見たいと思いながら機会に恵まれずに20年の月日が流れました。
今回は澁澤龍彦没後20年を記念して巖谷國士さんが監修をされ310点に及ぶ絵画などの展示をしています。第一室から第七室までにブースを分けて澁澤龍彦が生まれた1928年から亡くなる1987年までの59年間に渡っての生涯の各段階に関わった絵画などが展示しており、まさに本から飛び出してきたような幻想の画家たちの織り成すめくるめく世界が広がっていたのです。
澁澤龍彦と埼玉県の関わりというのは幼少期に深谷と川越に住んでたからなのだそうです。蔵の町あたりを澁澤少年は歩いていたのだと思うと楽しくなります。第一室ではそんな少年期から三島由紀夫との出会いにより世に知られることになったサド復活までをポートレートなどで紹介をしていました。
澁澤少年に多大な影響を与えた武井武雄のイラストレーション「お化けのアパート」がとても色鮮やかでした。
第二室は1960年代の活動と題して暗黒舞踏の土方巽の大きな大きなポートレート。演劇ポスターが何点かあったのですが横尾忠則のポスターを見て60年代の力強さ猥雑さの凝縮に圧倒されました。状況劇場などアングラ演劇全盛期の頃、この時代のポスターは画面から出てきそうな迫力があります。サイケデリックな配色が今見ても古さがないのですね。
そして、池田満寿雄の絵もしかり。澁澤は芸術家との出会いでまた更なる進化を遂げてゆきます。
第三室はもうひとつの西洋美術史と題して、デューラー、アンチンボルト、ルドンなどの絵画が展示されていました。中でもゴーディエの人体解剖図の男性、背面は圧巻です。ペロンとめくれた頭部の描写はありえないのだけれどリアリティがあります。そして精巧な画力。ここで97年以来のオーブリー・ビアズリーのサロメの原画に出会うことが出来て感激。振り返ってみるとギュスターブ・モローの出現も見えました。
第四室はシュルレアリスム再発見と題して、エルンストを筆頭にダリ、パウルクレー、ピカソ、忘れてちゃいけないルネ・マグリッド(「魅惑的な海水の船が・・・」という絵が大好きなので展示されていて嬉しくなってしまいました。逆人魚というべき魚の部分が上半身で人間の下半身がくっついているというシュールな絵なのです)非日常空間の心地よさが漂っていました。
絵画に囲まれてショーケースの中にはエルンストの「百頭女」の本などが展示。こちらは今絶版なのでしょうか?凄く欲しくなりました。
さらに奥にいくと・・・ここは私にとって今回最高の空間でした。
レオノール・フィニー、スワーンベリ(ランボーの「イリュミナシオン」挿絵が大好きなのです)そしていつかみたいと思っていたゾンネンシュターンの絵が目の前にあったときには大好きな「幻想の彼方へ」が飛び出す絵本になったのかとみまがうような感激に包まれました。
そして、後ろに下がり振り返ったらポール・デルボーのこれまた大きな油彩のキャンバスの中に大きな目のレディがたたずんでいるのです。その真ん中にハンス・ベルメールの球体関節人形写真。ゆがんだ世界というか非日常感からか平衡感覚がなくなってきて頭くらくらしてきました。気持ちいいくらくら感です。
第五室は日本のエロスと幻想と題して日本の画家の絵を展示してありました。いきなり目に飛び込んできたのは金子國義の描くあまりに無防備なシンメトリーの少女「花咲く乙女たち」シリーズ。キャンバスの中から挑発的なポーズでこちらを見ていて、大きな目にあまりに見つめられてしまうのでちょっとたじろいでしまいそうです。他には伊藤晴雨や佐伯俊男などを紹介。
そして出てきたのが四谷シモンさんの大きなお人形。長いまつげで目をつぶっていますが今にもすぅぅっと目をあけそうな雰囲気の怪しさとエロスを兼ね備えています。この頃に血と薔薇を刊行されていたとか。
そして第六室は旅・博物誌・ノスタルジアと大してヨーロッパ旅行のポートレートなどをつづり、博物詩、そして日本美術として伊藤若冲や河鍋暁斎、北斎の妖怪画を展示していました。昨年刊行された「澁澤龍彦の古寺巡礼」を読むと澁澤龍彦は伊藤若冲がことのほかお気に入りだったそうです。暁斎も好みに入っていたというのは暁斎ファンでもある私にとってはとても嬉しいエピソードでした。
骸骨をめでていたそうなので骸骨にまつわる展示もそういえば多かったような・・・
最後の第七室は高丘親王の航海と題して最後の小説となった高丘親王航海記とからめながら晩年の追悼となっています。一番最後に見る四谷シモンの天使のオブジェを見おえると幻想の麻薬が切れて現実に戻る趣向となっています。
今回の展示を通して澁澤龍彦はヨーロッパ文化を日本に紹介した人というイメージがあったのですが、太平記をそらで言えるくらいに日本の歴史に通じており、そんな素地を持ちつつヨーロッパの文化や美術を紹介していったので日本人に非常に馴染みがあったのだろうと思います。澁澤の作品は西洋的でハイカラなのにどこかノスタルジーを感じたからではないかと思うのです。そして、晩年はまた日本美術に回帰していったのもうなづけることです。
今回の企画展示はまさに澁澤龍彦館長の偉業のコレクションとも言えるべき幻想美術館なのです。ポール・デルボーの絵に出てくるメガネの紳士のように見終わった人間もこの美術展にとりこまれてしまうような甘美なひとときを味わえます。澁澤龍彦全集か出ている本をいくつか読んでおくと予備知識ができて更に面白くなります。
※ 幻想美術館はこの後、8月に札幌、10月に横須加にて展示があるそうです。(画集を買ったら書いてありました。)
札幌芸術の森美術館 http://sapporobussan.com/geimorib.html
横須賀美術館 http://www.yokosuka-moa.jp/schedule/200705.html
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