ハンニバルライジング

私の理想の殺人鬼はハンニバル・レクター博士。天才精神科医でありながら、冷酷な殺人鬼という2つの顔を合わせ持つダークサイドヒーローナンバー1の格調高さには惚れ惚れするばかりです。

91年の「羊たちの沈黙」を見て衝撃的な出会いをしてから2001年「ハンニバル」そして2002年「レッドドラゴン」と続くシリーズ最新作が今回公開。この理想のダークサイドヒーローがいかにして誕生したのかという秘密に迫る「ハンニバルライジング」なのです。
公式HP↓
http://hannibal-rising.jp/

ストーリーはこんな出だしで始まります。

1944年のリトアニア。名門貴族の家系に生まれたハンニバルは戦争の悲劇により両親を失う。幼い妹ミーシャを連れて山小屋で生活を始めたハンニバルだったが、逃亡兵たちがやって来て2人を監禁。そこでのある出来事を経て孤児院に送られ、成長したハンニバルギャスパー・ウリエル)は、やがて逃亡兵たちへの復しゅうを誓う。 (シネマトゥデイ

オープニングからいきなりの戦争の映像、戦闘機が飛び交い、戦車が走り回るまさに戦火のリトアニアの映像で始まります。そしてその中で起こった衝撃的と言える悲劇はハンニバル、後のレクター博士のあの冷酷でシニカルな人格を形成することとなったのです。

映画を見終えての感想としては後年のアンソニー・ホプキンス演じるレクター博士にも人並みの感情があったのだなと妙な感心をしてしまうことでしょうか。若き日のハンニバル愛する人のために復讐の鬼となり、殺人鬼となりそして殺す相手の告白により己の呪われたスティグマ(聖痕)を知ることとなって悪魔の洗礼を受け私たちの知るレクター博士が誕生するのです。

面白かったのは孤児院を抜けて頼った叔父の妻が日本人だったという設定なので、日本の調度品や武具(刀、兜、甲冑)が出てくることです。妻役のレディムラサキは中国人のコン・リーが演じていますがハリウッドが思う日本の正しい女性というステレオタイプにピッタリの雰囲気。イヤミな意味ではなくて黒髪が美しくそして妖艶な美しさは素晴らしいです。コン・リーの美しさはひそみの美人像でしょうか。陽気な笑う美人ではないどこか影のある眉をひそめる、苦しむ、苦悩する姿の美しさが映えていました。ハンニバルの宿命の女なのでしょう。

しかし、一番の今回の見所はといえば主役のハンニバルを演じたギャスパー・ウリエルでしょう。貴族的な顔立ちとたたずまいは中世の肖像画から飛び出てきたような気品が画面からも感じ取れるほど。ホントに息を飲むほどに美しいです。
衝撃的な出来事から殺人鬼として目覚めていく姿はどんどん美しくなっていく様にはもう見ていてもドキドキしてしまうくらいの妖艶さでした。そんな姿を見ていて堕天使、ルシファーを思い出してしまいました。ルシファーは元々全天使の長であったが、神と対立し、天を追放され、神の敵対者となったといわれていますがその姿は光り輝くばかりの美しさだったそうです。

冷酷な殺人をするハンニバルことギャスパー・ウリエルの笑顔が悪魔的でありながらも美しいと見えたときに「ルシファーだ」と思いました。斜めに上目使いで少し顔を歪ませて笑う・・・これが実にいい顔なので思わずドキリとしてしまうほど。これはもう必見です。涙するシーンもあるのですが残忍なシーンに気品と妖艶さを感じてしまいます。

映画を見ていて少しとまどうのはコン・リーがレディムラサキを演じたのと同じようにどうも日本のイメージが中国とごっちゃになっているところでしょうか。まぁ日本人キャストがあれだけ入ったラストサムライでさえなんじゃこりゃ?というのがあったのでそこは日本の雰囲気、オリエンタル色を強く出したとして物語のエッセンスとしてみていくと良いと思います。
レディムラサキのパリのお部屋には歌麿の浮世絵「寛政三美人」などが飾ってあったのでそれはちょっと嬉しかったです。欲を言えば芳年あたりの無残絵も出して欲しかったですが。

見終わっての感想はレクター博士が生まれ持っての殺人鬼ではなかったというのが開かされてしまったのはちょっとがっかりしてしまう部分でもあったのですが、これはこれでいいのだと感じました。考えてみればドラキュラ伯爵のモデルになった串刺し公ことワラキア公やジル・ド・レイも確か心をなくす瞬間の出来事があったはすです。この映画を見ることによりマスクの意味などはわかるので他の映画の重要な秘密を明かしていますから要チェックですしね。

全体に流れる気品ある雰囲気は凄く好きな映画なので合わせてやはりレクター博士ファン必見ですね。

そしてもうひとつ感じたこと。
戦争というものは善良な魂、無垢の魂さえも悪魔に変えてしまうのかも知れません。