地獄 (1960年製作)

すっかりあの眉間のしわに魅了されて、天知茂出演作品を探していたら見つけたのがこれです。

地獄 [DVD]

地獄 [DVD]

照魔鏡に写し出された前世の悪業! 全人類の欲望と罪を暴く恐怖の世界!
中川信夫が前年に監督した「東海道四谷怪談」と共に日本怪奇映画における最高傑作。前半部では現実世界での『地獄』を、後半部では「血の池」「針の山」に代表される死後(非現実世界)の『地獄』を大胆に提示しながら、人間の業と魂の救済を描いている

ストーリーなどの解説は良くお邪魔しているsans-tetesさんのところにとても詳しく書いてあります。見事な解説でさすがです。こちらを見て私も観たくなり購入してしまいました。↓
2009-12-16 - 神は賽を振らない

アマゾンのパッケージに書いてある通り、前編が出演者たちが地獄に落ちるまでで、後半が地獄に堕ちてさまざまな責め苦を受ける様子が描き出されています。
主人公の清水四郎役の若き日の天知茂の涼しげな好青年振りと婚約者矢島幸子役、後に四郎の実の妹とわかる谷口サチ子役の一人二役の三ツ矢歌子の清楚な美しさは一服の清涼剤のようです。(そういえば、この二人って後に江戸川乱歩シリーズ第一作の氷柱の美女で競演するんですよねぇ。なんという素敵な因果。ちなみに脚本は宮川一郎、美女シリーズの脚本家でもあります。)

そして、怪演をしてひときわ異彩を放っているのが四郎の友人田村役の沼田曜一。個性とアクが強すぎてイイ。こいつのおかげで四郎は殺人事件に巻き込まれ、加害者の遺族に恨まれ復讐のため毒殺され、その場にいた一族、近親者、婚約者一家、老人ホームの皆さんもろとも全滅。あげくに地獄に堕ちてゆくのはなんという展開でしょうか。
ここでふと思うのです。奇妙な糸に手繰り寄せられるかのように、運命に翻弄される四郎はこれで十分な生き地獄だろうがと。
四郎の実家に集まる人たちは父や妾をを筆頭にどうみてもあこぎで、悪に染まり腐りきっています。この人間たちも見るからに悪人で実にいい味を出しています。
善人の鑑にも見える幸子の父、矢島教授も戦争時代に友人を水の奪い合いで殺していまっていて人はどこかに罪を背負って生きているんだなぁと思ったりするわけです。
しかし、老人ホームの皆さんはまったくもってまき沿いで、死ぬのはちょっと可哀想ですねぇ。毒流した川で死んだ魚食って死ぬって私はまんが昔話でしか見たことなかったですよ。
という濃い前編を終えていよいよ、皆さん、地獄に堕ちます。
ここにいるのは地獄界のドン。閻魔大王なわけです。閻魔大王実にいい声で貫禄があります。そう、アラカンこと嵐寛寿郎さんなんですよ!照魔鏡には容赦なく罪人たちの罪は暴きだされ、地獄に響き渡るような声で罪人たちを裁きます。閻魔大王の装束、メイクもかっこよすぎっす。

地獄巡りはおなじみの三途の川渡りから、等活地獄黒縄地獄衆合地獄叫喚地獄大叫喚地獄焦熱地獄大焦熱地獄、阿鼻地獄という八大地獄が展開されて行きます。
四郎も田村に案内されながら地獄巡りになるわけですが、行く先々で身内や知り合いたちが地獄の責め苦を受けています。
この地獄のイメージがくらくらするくらいイカしてます。地獄絵図で見たものや、温泉場や観光地にある地獄巡りがそのまま動き出してしまったような感じなんですよ。
ドバァーと血が出たり、のこぎりでひかれたり、針の山があったり、炎で焼かれたり、舌を抜かれたりと、セットなどの造型はきわめてチープですが、ご当地の地獄巡りもそうであるように、精巧に作るよりもリアリティが出てきちゃうんですねぇ。地獄を見たことがないから余計にこういう描写が想像力を掻き立てるのではないかと思います。
これはCGで作っちゃだめなんですね。地獄っていうのはアナログの世界なんです。

四郎はこの地獄でいろんなことを知ります。自分と幸子に子供がいたこと。サチ子は実は妹だったことなどなど。罪もないと思われていた人が地獄に堕ちていた理由がわかり、どんな人でも罪を抱えて生きているのだなぁと妙にしみじみしてしまうんですね。
地獄巡りのラストにはまた現世の場面が戻り、安らかな死に顔のアップで終わります。

しかし、監督の中川信夫の感性って凄いわぁと感嘆します。普通、誰が地獄を映画化しようなんて思うでしょうか。
と調べて見たら、この時代の新東宝はお正月と夏に怪談ものを公開していたそーな。怪談映画の巨匠が撮った地獄は文句なしに凄いです。
教えてくださったsans-tetesさん、ありがとうございました。