サロメ図像学


サロメ図像学

サロメ図像学

運命の女・サロメ。聖書に登場して以来、2000年の歴史のなかで、芸術家の魂を捉え、教会彫刻や絵画に描かれてきた王女サロメの意味を、ワイルドの戯曲やクラナッハ、モロー、ビアズリーピカソ他、250点余の図像から読み解く。

作家の井村君江さんは日本における妖精学の第一人者の方だそうです。妖精の中には残忍な美しい妖精もいますからサロメにそんな姿を重ねて魅かれたでしょうか。この図像を集める旅を今から30年前に「サロメ・コレクショ収集」と題してヨーロッパ各地を息子さんを連れてなさったそうです。あとがきを読んで知り膨大なフィールドワークに尊敬し驚嘆するばかりです。

ところでサロメって誰なんだ?ということになると一番の原典はキリスト教新約聖書福音書「マタイ伝」と「マルコ伝」に記述されています。

ガラリアの王、ヘロデ王の誕生日の祝宴で妻ヘロディアスの連れ子、サロメが舞を踊りその褒美として、母から唆されサロメが望んだのが預言者ヨハネの首であった。預言者ヨハネは斬首されその首は盆に載せられサロメに褒美として与えられる

聖書では短い記述で記載されているのですが、首を所望する美しい少女という題材は芸術家の心に強い刺激を与えたようで数多くの絵画のモチーフとなっていいくのです。
たくさんの絵の中で盆に載せた首を持つサロメという構図を見ているとなんとも猟奇的な雰囲気をたたえているようですが、静かな雰囲気や厳かな雰囲気もたたえていてなんとも不思議な気持ちになります。
この構図はかなり描き続けられて行くのですが、世紀末にひとつのエポック的な作品によって更に進化をとげるのです。
その作品がオスカー・ワイルドによる戯曲「サロメ」。世紀末という退廃の時代の落とし子が世に放ったのは妖艶なサロメでした。
それに触発されたように描かれたサロメは「宿命の女」として昇華されたくさんの画家たちの思い描くサロメとして生まれていったのです。

ビアズリー、モロー、クリムトピカソローランサンミュシャなどによって生み出された百花繚乱のように描かれるさまざまなサロメは皆、美しいものばかりです。

愛してやまない預言者ヨハネの首を所望するサロメは悪魔的なイメージをかもし出してはいますが、実際のところは非常に純粋でワイルドのサロメの結末はヘロデ王の命により、兵の盾の下で圧死という最期をとげるのです。サロメは愛の殉教者ではないのかなと思えてくるのですね。そんな悪魔的な部分と純粋さから膨大な絵画が生まれてきたのでしょう。

ひとつの題材で見比べる絵画の変遷はとても面白い発見がありました。