冷たい熱帯魚

2006年ブログを始めた頃に紹介した一冊の本があります。
2006-02-13 - monksiiru(もんくしーる)の日記
平成5年に埼玉県熊谷市周辺で起こった埼玉愛犬家殺人事件の主犯の共犯者が書いた一冊です。

この事件にインスパイアされた映画が昨年出来上がったと知ったとき、驚きました。
園子温監督で作られると知った時いったいどんな映画になるのだろう?と。

テアトル系の映画館で公開が始まったのですが、見に行くチャンスがなかなかなくて結局映画館には足を運べませんでした。
思えば実在の事件は報道後、阪神大震災が起こりそちらの報道に隠れてしまい、この映画の公開もくしくも東日本大震災の最中・・・不思議と大災害と重なるのは何か不思議です。

DVDが出ると知ったので、注文してやっと8月1日に到着。8月2日に観ることができました。

冷たい熱帯魚 [DVD]

冷たい熱帯魚 [DVD]

見終わった後の感想、
映画を見ているときからはじまっていたなんとも言えない心のざわめきが止まりませんでした。

映像もインスパイアされた埼玉愛犬家殺人事件を踏襲したものがたっくさん出てきます。
特に血みどろの死体解体シーンや骨や肉を遺棄するシーンなど見事に再現されていました。
主犯の関根元の強烈なキャラクターをでんでんが村田という役で演じてますが、もうたまらない、凄すぎで圧倒されます。
セリフも関根語録がちりばめられていてもう、しょうもないくらいのハマりっぷり。
ハイテンションのしゃべりっぷり、アッパー系のホラ、そして満面の笑み、・・・。
まさに狂っているのですが、取り込まれたら最後、アッパー系おやじが神となり真実となってしまう。自分の意思、頭をもぎとられてしまう怖さ。
この怖さはカルト宗教に入ってしまって抜けられないところに似ているかもしれません。

そんな村田に取りこめられて巻き込まれていつの間にか共犯者になる、吹越満演じる社本をバカダナァと笑ってみていられないのです。

他人事に見ていられないところがこの映画の怖さ。
まさに日常にひそむ恐怖が画面にこれでもかと出てきます。
だからその結末も分かりきっていて間違いなく恐ろしいのだけれど最後まで見ずにはいられません。自分のとって置きたい守ってきた善人の部分だと思っていた部分をごっそりと剥ぎ取られてその下にある欲望を見破られてしまう社本が他人事には思えなくなるのですねぇ・・・。だから怖い。

一度目を見終わり、只今2度目を見ております。
2度目見てもやっぱり怖い。
スゴイ映画です。

役者陣はでんでん、吹越満の表裏一体の人物対比も良く、黒沢あすかの妖艶さと残酷さが素晴らしいのですが、特にでんでんが最高にイイ。
以前、テレビドラマの相棒で見た、でんでん演ずる老人ホームの所長が殺人を暴かれたときに豹変する真の顔の怖さ。始終ニコニコ笑顔だった顔から仮面が剥ぎ取られ、人でなしの顔に変わる時の素晴らしさにスゴイ役者さんだなぁと思っていました。
なので、この映画に出演すると聞いていたので期待度が高かったのです。
結果、もう素晴らしすぎて感動ものです。見事に狂っています。
滑舌が悪いんだけれど、それを強引に一気にまくしたてるセリフとか最高ですわ。溢れる言葉が追いつかない感じで文句なしです。

おまけ
うちの相方は10数年前、熊谷に住んでいたことがあります。
八木橋デパートの向い側に実際の事件のあった「アフリカケンネル」があったことを覚えていると言っておりました。当たり前なんですが、ごく普通にあったと・・・。
そして、恐怖というのはごく当たり前に目の前にあるのかも知れないなぁと思ったものでした。巻き込まれた人もきっと普通の人たちだったと思います。回避できた人との差はそれほどなかったはず・・・
だた、なんとなく思うのは「??」という心の違和感は案外と当たっていて皆、なんとなく回避していたのではないかと思います。
見えない第6感とでもいいましょうか。それが明暗をわけたような・・・。

今では更地になってしまっているそうで、人々の記憶からはすこしずつ消えてゆくのでしょうか・・・。それはそれで怖いことです。