鎌倉といえば「ツィゴイネルワイゼン」

鎌倉へ行ってきた後に無性にみたくなったのがこの映画です。

これはラストシーン近くの鶴岡八幡宮でのシーンです。
藤田敏八演ずる青地が渡る太鼓橋と原田芳雄演ずる中砂の娘、豊子の着物と下駄が私にはとても懐かしい風景に思えました。

今はあの急な石橋の太鼓橋は閉鎖されていて渡ることが出来ませんが、私の子供の頃は渡ることができました。初詣とか七五三とかとにかく晴れ着を着てぽっくりか下駄を履いてあの太鼓橋を登って渡ったような記憶があるのです。太鼓橋は本当に急で滑ったりしたら嫌だなぁと思っていたものでした。
この太鼓橋の記憶が私には強烈な印象に残っているようで、実は今も40の齢を過ぎても何かの折に夢に見るんです。
晴れ着を着た自分が意を決して太鼓橋を渡ろうとしているんですね。
滑ってはいけない、転んではいけないと夢の中でもとても緊張します。
最近も久々に太鼓橋が夢に出てきたのですが、これはこの映画を見たからでしょうか?

鎌倉が舞台のこの映画は何度見ても幽玄の世界がたまらなくてイイです。
あの世とこの世を行ったりきたりする描写と映像美がたまらないですねぇ。
このちょっと湿気のある雰囲気はやっぱり鎌倉でなくちゃ出来ない世界観だと思います。


先週に訪れた逗子の光明寺もロケ地に使われていたそうです。
この映画は食べ物も実に美味しそうなんです。
鰻に蕎麦にすき焼き(ちぎりこんにゃく)などなど・・・なんとも言えません。

釈迦堂切通は崩落の危険があるので今は通行不可になっているそうですが、ここはまさにあの世とこの世の境目、辻のような雰囲気を秘めておりますねぇ。

原田芳雄演じる中砂の無頼漢な水もしたたる男っぷりは本当にかっこよすぎるし、藤田敏八演じる青地のとつとつとしたたたずまいも素敵。
そして小稲と園の二役を演じた大谷直子の大正時代の絵から浮き出たような美しさと品も捨てがたいのですが、私は青地の妻、周子を演じた大楠道代さんにノックアウトされてしまいました。
猫のような小悪魔なお顔立ちに洋装、和装がどちらもお似合いでしぐさがとても素敵です。
ちょっと上を向いた気の強そうな鼻立ちがイイんですねぇ。
リボンのカチューシャに水玉のワンピースを着ているシーンはまるで金子国義の絵「花咲く乙女たち」から出てきたのかと思うほどでした。

鈴木清順監督の映画なので私には解釈がいささか難解であるところもあるのですが、それゆえに何度見ても新鮮さを味わえる作品でもありますね。
夏の蒸し暑い時期に見るのがとても好きです。