ハリウッド・サーティフィケイト

先日見た映画「ハンニバル・ライジング」を見ていてヒロインのレディ・ムラサキを演じる日本人の女優は誰かと考えていたらすぐに頭に浮かんだのがレオナ・マツザキ。
美しく知的で気品があって野性的でどこかミステリアスなオリエンタルな魅力のハリウッドきっての日本人女優。でも残念なことに彼女は島田荘司の描く小説の中のヒロインなのです。惜しい、実に惜しい。
レオナ・マツザキとの出会いは廃盤日記(増補改訂版)のじみへんさんから教えてもらった島田荘司の「アトポス」という長編小説(じみへんさんいわく弁当箱本)を読んだからです。これが実に面白かった。
ハリウッドの映画撮影中におこる殺人事件なのですが重要なキーパーソンの御手洗氏をさておいてレオナ・マツザキの魅力が満載で私は彼女の大ファンになってしまったのです。そんなレオナファンのためにとじみへんさんにお勧めいただいたのがこの「ハリウッド・サーティフィケイト」しかしこの本757ページにも及ぶ長編弁当箱で一度は手にしたものの諸事情により断念。そして月日は流れ先日の「ハンニバル・ライジング」を観てこれは読まなきゃ!と思い立ち図書館にて借りて今回二日で読破いたしました。

ハリウッド・サーティフィケイト (角川文庫)

ハリウッド・サーティフィケイト (角川文庫)

LAPDに持ち込まれたスナッフフィルム。そこには、ハリウッドの有名女優、パトリシア・クローガーが惨殺される様が映っていた。そして発見された死体からは、子宮と背骨が奪われていた!彼女の親友で女優のレオナ・マツザキが犯人探索を始めた。その過程で、女優志望のジョアンと出会う。彼女は記憶を失っており、何者かの手によってその体から子宮が摘出されているというのだ。事件との奇妙な符合を覚えるレオナ。そして第二の殺人が発生し…。なぜ女優の子宮は奪われたか?「虚構の都」ハリウッドを舞台に奇才が放つ長編本格ミステリ

あらすじだけでも面白そうですよね。
今回の舞台はそのものハリウッド。堕落と退廃、栄光と欲望渦巻く帝国。まさしくケネス・アンガーが書いたあの「ハリウッド・バビロン」そのままの世界が描かれています。というかあの頃から進化していないというべきか・・・。
出てくるモチーフが今回はケルト神話などがたくさん出てきます。そしてコナン・ドイルの妖精写真事件。こういう話が大好きなものとしてはもうどきどきわくわくのエッセンスが満載でした。
そして、レオナ・マツザキの魅力は爆発です。美しいハリウッドのトップ女優がみずから身を挺してLAPDの刑事エドをアシスタントに事件を解決してゆくさまはさながらアクション映画のよう、テコンドーで男たちと戦いとらわれてしまう危険にも巻き込まれてしまうのですが彼女は真実を知るためにひるむことはありません。むちゃくちゃかっこいいです。強さだけのアメコミに出てくるようなマッチョな女ヒロインならそれまでの魅力なのですが、レオナは別の面で繊細で小さな子供のような弱い部分も持ちそれを出すときがまたたまらなく彼女をさらに魅力的にそしてミステリアスな存在にしているのです。素敵過ぎです。

今回はレオナの友人である女優のパトリシアの猟奇的なスナッフ(殺人)ビデオから始まる出だしで物語は進んでいきます。そして記憶を失った美しい女性ジョアン。彼女はイアンという恋人を捜していくうちに記憶が少しずつ戻ってゆくのですが・・・。レオナはパトリシアの事件を追いかけるうちに数々の危険に巻き込まれていきますが、この事件の真相は大きな組織が絡んでいること、人類の暴挙ともいえる所業を知ることとなり、ジョアンの正体が暴かれるときにもうひとつの真実も明らかとなるのです。

エピソードが盛りだくさんで757ページまったく飽きることなく読むことができました。御手洗氏はちょっとしかでてきませんがこれも満を持しての登場でこれも良かったと思います。レオナが唯一心を許している御手洗氏の前ではハリウッドでは魔王といわれている彼女も少女のような初々しさ、純粋さがにじみ出ていて心温まる一幕でした。御手洗氏の登場によって謎に包まれていた事件の全貌がハイペースで明らかとなっていき物語りは一気に終章に向かってゆきます。そんなハイペースな展開もあってちょっとした映画を観ている気分になりました。
そんなわけで私はレオナのますますファンとなってしまっているのです。物語の中の描写だけで十分にレオナ像が思い描けるというのもやはり作家、島田荘司の描写力の技量の高さなのでしょう。とても面白く一気に読むことができました。日常からの開放として読むにはハリウッド・バビロンの毒気にあたってみるのも悪くはないです。退廃の中の悪の華を愛でる心地よさともいいましょうか。後味の悪さはありませんから是非。


おまけ
パトリシアの殺され方がブラック・ダリア事件に似ている犯行手口なので物語の中でもブラック・ダリア事件が出てきます。ブラック・ダリア事件も実にハリウッド的な猟奇事件です
殺人博物館 ブラックダリア事件
(当時の実際の死体写真がありますので苦手な方はご注意)↓
http://www5b.biglobe.ne.jp/~madison/murder/text/blackdahlia.html