冷蔵庫で食品を腐らす日本人

なんともショッキングなタイトルの本です。著者は敬愛する魚柄仁之助さんです。図書館で予約をしてやっと読むことができました。

冷蔵庫で食品を腐らす日本人 (朝日新書059)

冷蔵庫で食品を腐らす日本人 (朝日新書059)

あちこちの家庭の冷蔵庫は、いまや食品の墓場と化している! 一度炊いたお米や生野菜は干せば3年以上もつ上においしく食べられる。魚は酒粕(さけかす)漬けで半年以上保存でき料亭の味に変身する……。なのに、このような「保存の知恵」は冷蔵庫の普及で、すたれた。日本の食文化変遷をさまざまな切り口から検証し、「本当に幸せな食環境」を見出す魚柄仁之助。その提言の集大成となる1冊。資源もないのに無駄遣いばかりする日本人のために、「暮らしのスケールダウン」をどのようにしたらよいかを食の観点からつきつめ、具体的にコーチする、ほんとうに役に立つ新書。

冷蔵庫という家庭規模の話から始まり、そこから今のこれからの日本の食までが書かれています。
まず、タイトルにもあるとおりの冷蔵庫なのですが、年々巨大化しているのは家電売場で冷蔵庫コーナーを見るたびに私も感じていました。クローゼットみたいに巨大になっていいます。そしてそれだけでは足りずに冷凍庫だけや飲み物などのために専用の冷蔵庫も売っています。僻地や離島で月に何回かしか買い物をすることができない家庭の話ではなくてごくふつうの市街地に住む家庭の冷蔵庫の中に当たり前に食品が常にびっしりとストックされているのではないでしょうか。
そして、そのストックをきちんとつかいこなせる人はいいとして、結構、腐らせてしまったり冷凍庫の中で冷凍マンモスのように凍結させてしまい使わずに捨てたという経験は案外と多いのではないかと思います。どうしてそんな風になってしまうのか?魚柄さんは単純明快な答えを出してます。冷蔵庫が大きすぎて食べるのが追いつかないから。ではどうしたらいいのか?冷蔵庫を小型化するという結論です。

あったりまえじゃんそんなこととお思いでしょうが、高齢者の一人暮らしの家にも巨大な冷蔵庫が今はドッシリと鎮座しているんです。以前にホームヘルパーの実習で在宅介護のお宅で買い物を頼まれて行ったことがあるのですが、(身体介助ではなく掃除と買い物援助の方でした)冷蔵庫には食べるものが山ほどあるのにメモを渡されてスーパーに行きかなりの量の買い物をしてお渡ししたことがあります。冷蔵庫を開けるとあの独特の臭い・・・魚や肉にすえた腐った腐敗の香りやカビの臭いがしていました。台所の床のそこかしこにも袋に入った野菜があったのですが、時間内では買い物を渡していくのが精一杯なので中のチェックはしていないとヘルパーさんが言っていました。勝手に捨ててもいけないのでそのままにしているそうです。果たしてあのお年よりの今晩食べる食材はいつのものなのだろうか?と首をかしげてしまったものです。小さい冷蔵庫だったらここまでの状態にならないのではなかったかと思います。この話は案外と一般家庭でもありがちな話なのではないかと思います。実際の利用容量と欲しい容量が見合っていないズレってやつです。あれば安心ですが、食品には期限があることをつい忘れてしまいがちです。
次から次へと買ってきてしまうから忘れてしまってそして、冷蔵庫にぎっちりと食材が入っているからいつも古いものかた食べている、または腐ってしまってしまって食べずに捨てたという本末転倒なことになってしまったりするような・・・。安いからといって倍の量を買っても使いこなせなけば、廃棄します。だったら同じことですよね。使わない食品を無駄にしないように買い物の時点で余り買いすぎない心がけを少しずつしていかないといけないのだと思いました。そしていっそのこと入らないように冷蔵庫の小型化。

さらに魚柄さんはよりよい食生活をするための提案として「しまつ」をしようとおっしゃっています。食品のしまつや調理器具のあり方、そして、贈答品などのしまつ。これもたくさんあるから食べきれない、場所がない、などの弊害が出るわけでものを増やすよりもまず一度、当たり前にあるものが必要なのか?ということを考えてみるということです。しまつをするためにまず意識の大リストラの必要がありそうです。

後の章に進むと「食の下克上・・・高級魚と大衆魚が簡単に入れ替わる時代」戦後からの日本の食を振り返り、魚肉ソーセージを軸にして考えていきます。そして更に「築地市場はもういらない」と築地市場についての章。産地と直結して流通が始まっている昨今、築地が食の中心という時代は終わりをつげているのではないかと分析しています。そのうちに築地に残るのは観光化された飲食店だけなのではないかという大胆な仮説は案外と近い未来の話なのかもしれません。

他にもまだまだたくさんの食にまつわる話が満載なので書ききれないのでこのへんにしますが、難しい話も魚柄さんの語り口にかかるとホントわかりやすくてしかも面白い読み物となるのがこの人の本が大好きな理由です。そして、自らが実践をして買い物をして食事を作られているから実に共感できる賛同できる部分が多いのです。卓上論理ではない実戦、もとい実践派。実に生活感溢れている部分がたまらんちんなわけですね。

エコロジー、地球環境という大きなスケールの話を言われるよりも、台所にある冷蔵庫の話はとても具体的です。そして何よりも耳が痛い。だって毎日お世話になっていますし、実際に体験談もうなづきまくりです。こういう身近な部分から意識をもっていくのがとてもいいですね。ハードルが高くないから実践することもやりやすいです。

そして、この本はあとがきを必ず読んで欲しいです。あとがきに今の日本の縮図が織り込まれています。幸せとは?豊かさとは?と考えずにはいられない最高のエピソードとなっています。読んでいて胸につまされますが、感動します。とてもよいあとがきですのでお忘れなく。