恋の罪

11月18日の金曜日にムービックスさいたまのレイトショーで見てきました。一人で見るのがいいかも知れない映画ですね。見終わった後の反芻余韻が楽しいのでw

恋の罪
公式HP  http://www.koi-tumi.com/index.html

監督は奇才の園子温冷たい熱帯魚に続き、実在の事件にインスパイアされた作品です。
今回の元ネタになったのは1997年に起こった東電OL殺人事件です。
今年のこの震災後に東電ネタ・・・なんという皮肉なタイミングなのでしょうか。
→事件概要はこちら http://www.alpha-net.ne.jp/users2/knight9/touden.htm
この事件を元に佐野眞一ルポルタージュ本「東電OL殺人事件」や桐野夏生の小説「グロテスク」など著作は出ていましたが今回映像化になるのは初めてのようです。
以前に書いた書評はこちら↓
2006-08-19 - monksiiru(もんくしーる)の日記
恋の罪は3人の女性たちを巡る物語です。
刑事の吉田和子水野美紀)、大学教授の尾沢美津子(富樫真)、人気作家の妻の菊池いずみ(神楽坂恵)それぞれに抱える普段の恵まれて幸福そうな表の姿とは違った裏の心の中の闇の部分が描かれています。
そして闇の部分はそれぞれ違いがあるにせよ、表の生活を支える大切なものにもなっています。
闇の深さ順で言えば闇に落ちる前で踏みとどまるのが吉田和子で、闇に落ちた女が尾沢美津子、そして闇に落ちてゆく途中でもがくのが(最後には落ちてゆきますが)菊池いずみです。

映画は菊池いずみの成長、闇に堕ちてゆく肯定を通して進んでゆきます。人気作家の妻という恵まれた他人から見たらの幸せに見える生活を送っていたのに、ある時ふと自分の中にある満たされない空虚感に向き合ってしまいます。
そして、堕ちた女、昼は大学教授、夜は渋谷円山町の街角に立つ売春婦の尾沢美津子と出会うことにより、隠してきた闇の部分の自分のあるべき姿を見出してしまい売春婦として堕ちてゆきます。

吉田和子は円山町の廃墟にあったバラバラ殺人事件を追う刑事なんですが、印象としてはとても薄くてというか尾沢美津子が余りにも凄すぎて、なんだかうすーい印象になってしまっていてちょっと可哀想でした。
尾沢美津子の前では、菊池いずみ役の神楽坂恵が全編に渡り裸体を惜しげもなくさらけ出してくれたのに見終わるともうどっかにすっ飛んでしまいまっていましたけれどね。

そんくらい尾沢美津子、富樫真の演技が狂気を感じるくらい攻撃的で凄いし怖いです。
さらに怖いのは美津子の母、尾沢志津(大方斐紗子)です。
結局この母の影響によって自尊心を徹底的に否定された美津子は、唯一の庇護者であった父を失った後、闇に逃げなければ生きておれなかったその哀しさが見えてきます。
そんな母も自分の力で持ちえたものは何も無く、名家と出という自尊心だけで生きてきた人だったのでしょう。
上品ぶった親子の下品な言葉で罵りあうお茶会の罵倒合戦は圧巻ですが同時に強烈な負の感情でしかぶつかりあえない親子関係がとても哀しい。

今回は映画を見ているというよりも演劇を見ているような感じがしました。
美津子の廃墟のアパートのしつらえとか、仕事部屋とか。ラブホテル街のネオンの色とか。
断片的でアングラ演劇のような感じですかね。
セリフやキーワードになるものも演劇を思わせるものが多く印象に残ります。
「言葉なんておぼえるんじゃなかった」という出だしではじまる田村隆一の「帰途」。カフカの「城」。

美津子といずみの間で交わされる魂が叫ぶ言葉は心に突き刺さるように心に響きます。
真面目に叫んでいる魂の言葉に時には余りに真剣すぎて笑ってしまったり、そして圧倒されます。尾沢美津子のモデルになったのが東電OL殺人事件の被害者ですね。
富樫真さんが魂込めて演じている美津子に圧倒されました。拒食症の痩せた体系までも再現されていたのには本当に驚きました。妥協を許さない全か無か、表か裏かしかない美津子の内面が身体にも現われているかのようでしたね。そして彼女にとっての売春は自分に対する懲罰だというかのようなストイックな姿は激しすぎます。そして、他者に対する過剰なまでの攻撃性は実は全て自分に向けられているのがわかると本当に哀しい。

2時間半の間、常に緊張しているような感じで見ていたので映画が終わった後にはどっと疲れが出ました。多分、決していい疲れではないですね。人の見ちゃいけないこととか、秘密の悔恨を聞いて全身で受け止めちゃったような疲労感です。まぁ面白かったのでいい余韻ですけれどねw
帰り車を運転しながら映画を思い出していて思いついた言葉


誰がこまどりを殺したの?
マザーグース

私はそれを見た
ゴヤ) 

美津子は城を見ることがたどり着くことができたのでしょうか?
そして、いずみは城を見ることがたどり着くことできるのでしょうか?

おまけ1
映画を見終わった後はしばらくはスーパーで試食コーナーを通りかかるとぞわぞわしてきちゃいますね。
いずみのセリフが耳からリフレインしそうでwww

おまけ2  
なんだっけ?あぁこれだ!
と思い出して思わずアマゾンで買ってしまいました。

女という病

女という病

うさぎ先生は東京MXで放送されている五時に夢中という番組で美保純とともにコメンテーターをやっているのですが、毎回歯に衣着せぬぶっ飛んだコメントをされて素敵です。何ヶ月前かの放送で東電OL殺人事件の新証拠発見のニュースが報道された時にコメントをしていたのですが、かなりこの事件に強く引き込まれているのがわかりました。
うさぎ先生は買い物依存症とかホストに貢ぐとか風俗嬢体験とか整形とか破天荒に見えるようで実はとてもモラリストで繊細な方だと思います。凄く真面目な人なんだと思います。異議は多いかもしれませんが、そんなところが美津子にかぶるんですよねぇ。

男性が描く女性像というのはやはりどこかにファンタジーが存在していて(恋の罪もそんな部分があります)桐野夏生中村うさぎのように女性が描くものの方が容赦ない実体を描くような気がします。なのでどうしてもそちらに実体感、重量感を感じてしまうのはいたしかたないのかもしれません。