「別海から来た女」結婚詐欺・不審死殺人事件

昨年秋、東武東上線みずほ台駅ロータリーの富士見ラドンセンターの看板に一枚の告知が貼られていました。平成24年10月31日を持って閉館しましたというお知らせです。
富士見ラドンセンターは国道463線沿いにあった温泉施設で、1970年代からの長きにわたる営業に幕を閉じたそうです。
そんな感慨深いラドンセンターの告知をみて不謹慎ではありますが、この場所が空前に有名になったことを思い出しました。
2009年9月に発覚した「結婚詐欺・連続不審死事件」の被告、木嶋佳苗が最後の被害者である東京在住の男性をラドンセンター近くの駐車場でレンタカー車内に置きざりにし練炭で殺害。その後、ラドンセンターからタクシーを呼び自宅にもどったということで当時、マスコミがこの近辺を取材して報道したのでラドンセンターは非常に印象に残っていました。

ちなみに木嶋佳苗が長きにわたって拘留されていた川越警察署は私の当時の毎日の通勤ルートでした。
ニュースで報道を見るたびに「この建物の中に木嶋佳苗がいるんだなぁ」と思っていたものです。
一番のハイライトといえば、川越警察署から移送される日の出来事でした。あのあたりって川越駅からも離れているし幹線道路の国道254号線をちょいと曲がればのどかな畑の広がるところなんですね。ですから川越警察署の前なんか普段は誰もいやしません。
しかし、当日は違いました。警察署の向かい側の道路沿いに三脚に乗ったカメラマン、報道の人たちが100人以上いてバイクと車がいっぱい。ものものしく警察署奥の車両出入り口を凝視していました。
その日の夜にテレビで見たら私が通りかかった後に移送されていったようです。移送中の車の映像を撮影するためにヘリコプター出ていたそうですね。あれだけの大きな事件の被告ですのでやはり世間の関心はとても高かったと思います。
木嶋佳苗はその後、刑事事件(殺人3件、詐欺・同未遂6件、窃盗1件)被告として、昨年2012年の1月から4月にかけて、さいたま地裁にて裁かれることになりました。
その日数、なんと100日間。この長きにわたる裁判の判決は「死刑」でした。
木嶋佳苗の起こしたこの事件は結婚詐欺・連続不審死事件と呼ばれています。
これだけの大きな事件なのでいずれ誰かが書籍にするだろうと思っていたらルポルタージュの御大、佐野眞一氏が昨年5月に上梓しました。


別海から来た女――木嶋佳苗 悪魔祓いの百日裁判

別海から来た女――木嶋佳苗 悪魔祓いの百日裁判

「これは、私の書いた『東電OL殺人事件』を超える事件だ」――著者

殺人3件・未遂多数。北海道・別海町の名家に育った女が、男たちを次々と毒牙にかける――女と男の闇を射る佐野ノンフィクションの真骨頂!

あなたも、木嶋佳苗の魔力から逃れられなくなる。昂奮のサスペンス・ノンフィクション
・木嶋の祖父の遺言になった「決定的証言」
・事件後に生き残った男の恐るべき現在
・木嶋の「本命恋人」が私に見せた素顔
・百日裁判「新聞が報じられなかったこと」
・徹底取材 木嶋家四代に遡るロードムービー

戦後犯罪史上ナンバーワン「首都圏連続不審死事件」の全てを描いた力作!

私たちはこの事件からなぜ目が離せないのか。それはおそらく、この事件に関心をもつすべての人が、木嶋佳苗に、そして木嶋佳苗にだまされた人に、いくらかずつ似ている自分に無意識のうちに気がついているからである。――本文より


読もう読もうと思いつつ機会を逃していたのですが、市立図書館で借りることができたので一日で読み切りました。
佐野眞一のフィールドワークは相変わらず壮大で木嶋佳苗の生まれ育った北海道別海町、そして木嶋家のルーツ福井県まで足を伸ばしています。
インタビューも木嶋佳苗の母、祖父、親戚や結婚詐欺や殺人に巻き込まれた被害者の方たちの遺族や知人など本当によくもまぁそこまで行くなぁと思うくらいたくさんの人に会っています。そして容赦なく生きてきた背景を文章にしてしまっています。中にはちょっとやりすぎ(画家のご子息で殺された安藤さんのあたりなんか)っていうのもありました。
ただこの容赦ないところこそが佐野眞一でありやっぱり佐野眞一なんだなと思うところですね。
そして、わかりすぎるくらいに作者は本当に木嶋佳苗が嫌いなんだなということですね。
笑っちゃいけないのだけれど少しも歩み寄って考えることがなく木嶋はサイコパスで悪魔と断罪しちゃってますからね(苦笑)
でも下手に裁判中に木嶋のことを「可愛い声」とか「つやつやした黒髪」とか毎日の裁判で場合によっては午前と午後に服を着替えたそうでその様子をイラストなどで紹介していたテレビのワイドショーよりはよっぽど正義感にあふれていて私は好感持ちましたよ。
だって100日裁判のころのマスコミってまさに木嶋劇場にすっかりからめ捕られた状態でバカ騒ぎをしていて何一つ真実が見えませんでしたからね。

作者はあくまでも男目線で事件を読みとこうとしていますよね。そこがちょくちょく感じた私の違和感なのかもしれません。この違和感は「東電OL殺人事件」の時と同じですね。

ただ、私も木嶋佳苗に共感するところって無いですね。
ネットという中で一生懸命虚栄に満ちた嘘をつき、婚活で縁のあった人たちにお金の援助を求め、お金を搾り取ると殺してしまう。
この女には働いてお金を稼ぐという概念が全く欠如しているのですよね。人のお金だから湯水のごとく使うわけです。

セレブとか言っていたんですよね。
改めて木嶋佳苗の婚活サイトのプロフィールやらクックパッドの「かなえキッチン」などを見ると一生懸命、エレガントでセレブで上品な雰囲気を醸し出そうとしているのですが、虚栄心が見え見えで読んでいてげんなりしてしまいます。
控え目で丁寧な文章を書いているように見せて
「私って素敵でしょ、すごいでしょ、偉いでしょ、イイでしょ、褒めて、褒めてー!!」
っていうのが前のめりになっちゃって画面から飛び出てきそうです。
やたら説明の長い文章ももう読むのさえお腹いっぱいでつまり、痛いんですよ。

本来のエレガントや上品とはやっぱりメッキものは違んですよねぇ。

しかし、ネットで婚活をしていた被害者の男性たちには家庭的で母性にあふれた大和撫子のように翻訳されてしまったのでしょうね。そこが本当に気の毒で・・・周りに女兄弟がいて何かしら相談していたらきっと木嶋の毒牙にはかからずに済んだのではないかと悔やまれるのです。
女が見れば木嶋のプロフィールやメールの内容はすべて嘘くさいように思える内容ばっかりです。被害者のお姉さんや母親で木嶋の不審さに疑問を感じていた方たちもいました。やはり女性には隠せないのでしょう。
しかし木嶋の魔力は世間ずれしていない、誠実な男性たちにはそれは甘いファンタジーであり、幸せな結婚生活を夢見させるに十分な猛毒だったのだと思います。

木嶋佳苗のエピソードとは規模は違いますが、実は私が今まで生きてきた中でも似たようなことを聞いたり体験したことがあります。
被害者側になりますが、結婚詐欺にあったというひとを男女で1人ずつ知っています。聞いたときはびっくりしましたけれど、本当に巧みな話術で結婚という甘いささやきでなんのためらいもなくお金を引き出されてしまったそうです。
両名とも聡明な方だったのでどうして?と思ったものですが、詐欺師の方が一枚も二枚も上手ということなんでしょうね。

木嶋佳苗というモンスターは仮想空間、インターネットというものがなければ存在することはなかったのではないかと思います。
全く見えないもの同士が例え世界のはじっことはじっこという場所であっても繋がるというインターネットの世界。本当はとても遠い場所で普段なら知り合うことも無かった人に一瞬で知り合える便利さ。その便利さとは裏腹に知り合ったもの同士の心の距離さえも一気に縮めるように感じてしまう危険性を改めて考えないといけないのだと思います。
ネットの向こうの相手は自分が思っている本当の相手なのか?嘘なのか?本当なのか?良い人なのか?悪い人なのか?匿名性が高いネットの世界は悪い人たちからしたら恰好の良い漁場ですからネットを使う私たちは十分に注意して使う必要があると思います。

最後に昔昔の話です。
私の中学生の時代には空前の文通ブームってのがありました。あのころは個人情報ダダ漏れの時代で平気で自宅の住所、名前を雑誌や会報などの記載してもらって文通相手を探していたものです。
でも、事故や事件ってあんまりなかったんですよね。
電話ももちろん家電の時代で家族の取次もあったし、会うにしたって家族にもそのことを伝えて手紙の往復やら何やらで何度も連絡取りあってからでした。
ちなみに遠方の友人だと文通が始まってから10数年後に会ったなんてもこともありました。
今は手紙よりもネットに移行していますが、そんな友人たちが7人ほどいて、今でも友人として交流をしています。

文通でも詐欺みたいのがあったんですよ。
何度か手紙をやりとりしていて「妹がガンになり治療費がなくて困っている。お金をいくらでもいいから5万円でいいから送ってほしい」という内容の手紙を貰ったことあります。ちなみにその人とは会ったことありませんでした。その頃は本当にお金がなかったので「スミマセン、お金がないので送ることが出来ません。妹さんの身体良くなること祈っています」と送ったらそれっきり手紙が来なくなりました。
それまではものすごい頻度で手紙のやりとりがあったのですけれどね、
数年後に何かの話題ついでに他の友人に聞いたら文通界ではそういうことままあって真面目な男性だと本当にお金送ってくれるから何人にも手紙出すらしいそーな。そう言えばいくらでもいいからと言いつつ5万円と勝手に決められて、更に○○さんは10数万送ってくれました。○○さんは10万円を返さなくていいからと送ってくれたとか書いてありましたっけ。男性の方たちはみんなお金送ってくれたと書いてありましたね。
風のうわさに聞くと一度お礼の手紙が来てそれっきり音信不通になったらしいですが・・・。
やっぱり詐欺だったんだと思いました。

よくも悪くも手紙っていうのは証拠が残りますからね、ポストの中の手紙を家族がいればみてますし結構文通が長いと家族公認になっているものです。そんなわけでネットよりはまだ安全だったのかも知れませんね。

しかし、木嶋佳苗には女友達っていうのはいたのでしょうかね?
東電OL殺人の被害者の方の時はせめて心の内を話せる友人がいたらと思ったものですが、木嶋佳苗に関してはモンスターに付き合えた友人がいたらどんな猛者なんだろうかと思ったからなのでした。私はご免ですが。

木嶋佳苗の人となりを知るにはこのまとめがとてもわかりやすいです↓
34歳結婚詐欺女テンプレ@ ウィキ
http://www24.atwiki.jp/matome3435/pages/28.html

木嶋が掲載した婚活サイトのプロフィールやブログ。事件経過、裁判の傍聴をしてきた方のレポが載っていて時空系列を把握しやすいです。

しかしねぇこの本のタイトルが秀逸すぎますね。
別海から来た女ってw
ほとんどゴジララドンキングギドラが都心に来襲にしか思えません。あぁだからラドンセンター・・・ってなことはないですね。
スミマセンふざけ過ぎました。